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王太子とヴァキアンの姫君 (4)

 翌日。

 ルイナンは朝から災難続きであった。まず朝食が終わるや否や母ソフィーダから呼び出しを喰らう。昨日の御前会議の件でみっちり叱られた後、更に今度は宿題の作文をやっていなかったことで教官から大目玉をもらう。
 乗馬をやれば何故か馬から落ちる。よそ見をしながら歩いていて廊下の花瓶にぶつかり、粉みじんにする。
 あまりにがっかりしたので、昼前には部屋に戻ってきて寝台に倒れ込んでしまった。
 「ついてない…」
 そのまま眠ることにしよう、と思ったときに更に極めつけの災難が飛んできた。
 使者が来たのである。姉ジャーリスが呼んでいるとのことだった。
 ルイナンは心の底から溜息をつき、立ち上がった。


 姉は相変わらず超然としていた。
 「姉上、何の用ですか」
 「可愛い弟が、今日は散々な目に遭っているときいたから、なぐさめようと思って」
 「…」
 泣きっ面に蜂という言葉がルイナンの頭に浮かんだ。
 「そう警戒したものでもないわ。お座りなさい」
 姉は誰もが騙される微笑みを浮かべ、ルイナンに長椅子をすすめた。彼が座ると、奴隷達が飲み物を差し出す。
 「それにしても、ルイナンはどうしてそんなにマジェスティになりたくないの?」
 「なりたくないわけじゃないです」
 「では、どうしてそう何もかもさぼろうとするの?」
 「それしかなるものがないというのが嫌なのです」
 ― 何を贅沢な。
 …と思ったがジャーリスは口にしない。
 「そうね…生まれたときから決まっているというのも、嫌なものよね?」
 「でしょう?姉上」
 昨日裏切られたくせに今日は疑う気配もない。ルイナンのそういう奇妙に素直なところも、ジャーリスは好きではなかった。
 「せめて妃くらいは自分で選びたいなあ」
 「何ですって?」
 呟くようにぼそりと言った言葉を、ジャーリスは聞き逃さなかった。
 「いえ、その…どうしてもマジェスティにならなきゃいけないにしても、妃くらいは自分で選べたらいいなあと思って」
 「何でいきなりそんな話になるの?」
 「…なんとなくです」
 ルイナンも一応は帝王候補である。昨日の御前会議でジャーリスの嫁ぎ先が話題になり、関連して我が身を思った…とは口にしなかった。
 「昨日の御前会議で、そろそろ妃をもらえとでも言われたの?」
 ジャーリスはなかなか鋭い。
 「先程、母上に…」
 一応、嘘ではない。ソフィーダからは「こんなことでは妃でももらわないと、ルイナンが落ち着くとは思えないわ」と言うには言われた。
 果たしてジャーリスはふぅん、と納得したようにうなずいた。
 「好きな娘でもいるの?」
 「いや、特には」
 「じゃあ自分で選ぶも何もないじゃないの」
 「これから探します」
 「どうやって?」
 「…」
 「どんな娘が好きなの?」
 「どんな娘…」
 少なくとも姉や母と似たようなタイプは絶対にごめんだと思ったが、素直に口に出したが最後どんな目に遭わされるか分からない。
 しばらく悩んだ。
 「そりゃ…美しくて、快活で、歌とか上手くて…」
 胸があって、という理想は言うのを控えてみる。
 「ありきたりねえ。美しいっていうのはどういうのを指すの?」
 「目が大きめで、整っているような」
 「姉上みたいな、って言った方が良いんじゃなくて?」
 「いえ」
 それだけは違う。
 「とにかく、俺が自分で見ていいと思ったらそれが俺の理想です」
 「簡単なような難しいような。とにかく自分で見ないと気が済まないのね?」
 「そうです」
 「ふぅん」
 ジャーリスはまたにっこりと笑い、弟に菓子を勧めた。

神崎 瑠珠 * 王太子とヴァキアンの姫君 * 22:42 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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