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王太子とヴァキアンの姫君 (5)

ルイナンが帰った後ジャーリスは早々に小部屋に入り、シャムスエンナハールを呼び出した。


 「なぁに、ジンニーア使いが荒いんだからもう、ジャーリスは」
 「何とでもいいなさい、さあ、あなたの名は?」
 「シャムスエンナハール」
 今日も名を取られたわ、と微妙に悔しそうな表情のシャムスエンナハールは、ジャーリスの表情をまじまじとみた。
 「うわぁ、悪巧みしてる時の顔だ」
 「何よ、人聞きの悪い」
 「だってその通りなんだもの。何を思いついたの?」
 「良いことよ。ついでに言うと、弟のためになることよ」
 「…ためにならなさそう…」
 「何か?」
 「いえ別に。で、何?」
 「シャムスエンナハールは、世界のあちこちを回っているのでしょ?」
 「…そうだけど」
 「だったらどこか遠くの王宮でわたくしの次くらいに美しい姫君を見たことがなくて?」
 「わたくしの次、ねえ」
 「だってわたくし程の姫がそうそういるはずがないもの。ね、いないの?」
 「ものすごい自信ね」
 シャムスエンナハールはやや呆れたが、そう言っても不遜にならないだけの美しさがジャーリスにあることは認めないわけにいかなかった。
 「あんまり気をつけてみてないから分からないけど。居たらどうするの?」
 「秘密。じゃ、探してみてくれない?」
 「秘密ってところが怪しいなぁ。ろくなことじゃないような気がする」
 「大丈夫大丈夫。ね、お願い」
 「まあ、いいけど」
 不承不承シャムスエンナハールは頷く。ジャーリスはにっこり笑った。


 部屋に帰ったルイナンを待っていた女奴隷の中に、ダリアがいた。
 レーゼとサラディンの娘である。
 本来ルイナン付きの女官ということになっているのだが、本人はあまり偉ぶったことが好きではないので、いつも女奴隷の中に混じってちんまりとしていた。
 まだ13歳なのだし、年上の奴隷たちに指示を出せと言われても困ってしまう。
 ルイナンはそういったダリアの気質が嫌いではなかった。
 「よう、ダリア」
 気軽に声もかける。
 「次なる栄え、暁の御方、ダルリ…」
 「ああ、いいよ長いから」
 生真面目に対王太子向けの口上を述べようとしたダリアを遮った。
 「はい…。あの、何かお召し上がりになりますか」
 「シャーベットを」
 「よかった」
 ダリアの手には、シャーベットの瓶があった。勿論これだけを用意していたわけではない。
 母譲りの気配りのよさで、ルイナンの好みはだいたい分かっていた。
 果たして、ルイナンは差し出されたシャーベットを一気に飲み干して長椅子にだらしなく座る。ダリアは足下に大人しく控えた。
 「今日はついてないな…」
 ひとりごちるルイナン。ダリアは勿論黙っていた。気が利く上に無駄口はきかない。父と母の良いところを着実に受け継いでいる。
 「なあ、ダリア」
 「はい」
 「今日はすごくついてなかったんだ」
 「そうなのですか」
 「いいことといえば、今シャーベットを飲めたことくらいだ」
 「それだけでも良いことがあって、よかったですね」
 「…そうかな」
 「多分」
 「そうか…」
 ダリアはルイナンを励ますでもなく、そっけなくでもなく淡々と返事をするだけである。母のように愛嬌をもって仕えるというタイプではなかった。
 しかし何故かルイナンは、ダリアのその淡々とした調子が落ち着くのである。
 「そっか。お前が言うなら、そうなんだな」
 「恐れ入ります」
 「じゃ、そういうことにしておこう」
 二人はいつもこんな調子であった。

神崎 瑠珠 * 王太子とヴァキアンの姫君 * 23:04 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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