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王太子とヴァキアンの姫君 (6)

 数日後。

 いつもの小部屋で、ジャーリスはシャムスエンナハールと向き合っていた。
 「お望みのものを見つけたわよ。ジャーリス姫」
 「それはありがとう。その前に、あなたの名は?」
 「…シャムスエンナハール。どんなに喰らいつきそうな話を先に持ってきても名前をとるのを忘れないっていうのは、ジャーリスの可愛くないところよねえ」
 「わたくしを誰だと思っているの。当代マジェスティの第一セット(姫)にそんな無礼な口は許さないわよ」
 ぴしゃりとジャーリスは言い、優雅に椅子に腰掛けた。
 「それで、わたくしの望みのものとは?」
 「忘れたの?美しい姫を探してきてほしかったのでしょ?」
 「忘れてはいないわよ。ただ、わたくしの次くらいに美しい姫となると、そう簡単には見つからないと思っていただけよ」
 シャムスエンナハールは愉快で仕方ないといった体で、その狭い部屋をくるくるっと回った。全く、ジャーリスの高すぎるプライドはすがすがしいほどだ。
 「でも、いたのね?」
 「探したわよ。海の向こうまで行ってしまったわ。まあ趣味のようなものだったけど」
 「どこにいたの?」
 「ジャーリスは知ってるかしら。バスクという王国に居たわ」
 「バスク…?」
 ジャーリスは眉をひそめた。そんな国は聞いたことがない。
 「カリューンを奉じていない国よ。レスト・カーンの属国ではないから、ジャーリスが知らなくても無理はないわね」
 「まあ」
 ジャーリスはますますその美しい眉をひそめる。カリューンを奉じていない異教徒の存在など、汚らわしくて仕方がない。
 「その王宮に、それはもう美しい姫がいたのよ。名前はバディーアというらしいわ。一人娘らしいわね。あとあんまり詳しいことは、見てこなかったけど」
 ジャーリスはしばしの間考える。
 最果ての異教徒の王国。一人娘。どこをとっても申し分ないではないか。
 その美しい顔にゆっくりといたずらっぽい笑みが浮かんだ。
 「ね、シャムスエンナハール。その姫が本当に美しいかどうか、わたくしも見てみたいわ。あなたになら、それが出来るのではなくて?」
 「見たいって…どうやって?」
 「わたくしのところに連れてきてくれないかしら」
 シャムスエンナハールはさっきの倍ほどの勢いで部屋を回った。この姫はなんということを言うのだ。
 「見てどうするのよ」
 「ルイナンは、自分の妃にする娘は自分で見てみたいと言ったわ。だから見せてあげたいのよ」
 「見せてあげたいって…それでその姫はどうするの?誘拐するの?」
 「まさか」
 顔のヴェールをもてあそびながらジャーリスはゆっくりと微笑む。
 「ちゃんとお返ししなくてはね」
 「だ…ダルリーヴ(王太子)に見せるだけ、なの!?」
 「こんな姫ならどう?っていうだけの話よ。あの子の理想はまだ固まっていないらしいの。だったら少しでもその手伝いをしてあげたいというのが姉心だわ。でもその姫を誘拐するわけにはいかない。戦争になったら困るもの。だからきちんとお返ししなくてはね」
 「だ、だってそんなことしたら…」
 「ルイナンの好みに合えばその姫に似た娘を探すのにわたくしも協力できるし、好みに合わなければまた方向性も見えるでしょうし。ジンニーア(女魔神)にはこういった姉弟の情というものは、理解できないかしら?」
 姉弟の情なのだろうか。女魔神はたっぷり考え込みながら部屋をくるくると回ったが、どうにも分からない。人間とは不可思議な生き物だ。
 「それとも」
 ジャーリスはその大きな瞳を見開いた。
 「まさか、シャムスエンナハールにはそんな力はない、とか?」
 「…そんな挑発には乗らないわよ」
 「あら、残念ね。あまりに渋るから、虚勢を張っているのだと思っていたわ」
 「乗らないけど…」
 シャムスエンナハールは屈した。
 「名前を取られている以上、どうしようもないのよ。でもそれ以前に、私は結構面白い事が好きなの。ジャーリスのことも損得抜きで好きよ。そういう悪巧みをするところがね」
 「悪巧みと言われるのは心外だけれど、じゃあ、決まりね。私も大好きよ、シャムスエンナハール」
 姫君と女魔神は、顔を見合わせてにっこりと笑った。

神崎 瑠珠 * 王太子とヴァキアンの姫君 * 23:13 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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