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月のワルツ(1)

序 彼女はうさぎと出会う

 月が蒼くて蒼くて、薄明るい星はなりをひそめるような夜だった。
 私は知らない森の中、たった一人で帰る道を探していた。
 一人で帰らなければいけない。はぐれてしまったあの人のところへ。
 そこしか帰るところはないのだから。
 朝まで待てばいいのだろうか。でも、月が蒼くて道が照らされているし、もしかしたらあの人が見つかるかもしれない。
 それにしても何て広い森なんだろう。広くて、深い。私は今すっぽりのみ込まれている。
 そして双子みたいで私にはちっとも区別のつかない木々をたどっていくと、不意に開けた場所に出た。
 瀟洒なテーブルと椅子がたたずんでいる。もとは白だと思うのだが、月のせいでまるっきり蒼にしか見えない。
 そこには、タキシード姿のうさぎが鎮と座っていた。
 「…?」
 「お嬢さん」
 うさぎが喋った。
 「ワインは如何ですか?」
 私はどう返答していいのか、迷う。だって、喋るうさぎなんて知らない。
 「さあ、どうぞ」
 うさぎはさっと椅子から降りると、完璧なエスコートで私をテーブルに導いた。
 「あ、ありがとう…」
 私がふわりと座ると、うさぎはどこから取りだしたのか足の長いワイングラスと、ボトルを取りだす。
 背が足りなかったので、彼はその後脚で優雅に地面を蹴ってテーブルに飛び乗った。ソムリエというよりは指揮者のような手つきで上からワインを注ぐ。
 多分赤いワインなのだろう。月の色と中和されて、紫に見える。彼(なのかどうかわからないけど)は一滴もこぼさずにそれを注ぎ終え、また優雅に地面に戻った。
 「どうぞ、お嬢さん」
 私はなんとなく居心地の悪さを感じながら、完璧に光るそのワイングラスを手に取った。
 赤いワインがくらりと揺れる。
 唇にそれが触れた途端、世界が変わった。

神崎 瑠珠 * 月のワルツ * 22:55 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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