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月のワルツ(2)

一  貴方は何処にいるの?

 それがキノコだと気づくまでに時間がかかった。
 先程のワインと同じように真っ赤なんだろうけれども、月のせいで紫にみえるキノコ。
 私の上に次々と大きな傘を開いていく。
 吃驚して見上げた拍子に、ワイングラスは私の手を滑り抜けた。地面にぶつかり、雨のように細かく柔らかく砕け散る。
 うさぎが、ひゃあと声をあげた。
 「ご、ごめんなさい」
 ガラスのかけらは鋭利なものだったような気がするのに、と思いながら私はとにかく謝った。
 「大丈夫、お嬢さん。こんなことはなんでもない」
 言うと、うさぎはまた指揮者のように優雅に手を翻す。つられてワイングラスは当たり前のように自然に、柔らかいかけらが集まって元の通りテーブルの上におさまった。
 「どういうこと…?」
 「ここは時間の国だから、造作ないのです。壊したものは直り、失ったものは見つかる。
 貴女は、何か失くしたものを探しに来たのではないのですか?」
 うさぎには何もかも分かっているようだった。
 「…」
 私の答えを待たずに、うさぎは手にしたワインのボトルから中身を振りまく。
 真っ赤な傘の下は、それを合図になにかで埋め尽くされる。
 どこからともなく音楽も聞こえ、そして踊りが始まった。
 「メリッサ」
 「…?どうして知ってるの?」
 私の名前。
 「さあ、どうしてでしょう?」
 うさぎの目がくるりと回ったように見えた。私は、逃げた。

神崎 瑠珠 * 月のワルツ * 22:52 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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