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王太子とヴァキアンの姫君 (11)

 「何を言っているの、ルイナン?」

いつもの長椅子に腰掛けた母妃ソフィーダは、呆れたように言った。
 横には勿論おそば去らずの奴隷であり、ダリアの母でもあるレーゼが控えている。
 ルイナンがせっかく起き抜けの母妃の部屋に強引に入り込み、昨夜のことを話したというのに、母妃の口から出たのは全く期待はずれの言葉だった。
 そんなはずはない。ルイナンは焦ってソフィーダに詰め寄る。
 「だって、考えたら母上しかいらっしゃらないのです。俺に妃をあてがうために彼女を寄越したのでしょう?」
 ルイナンとしては「遅かったわね、ルイナン。やっと気がついたの?そうです、わたくしです」という言葉が出てくると思ったのだ。そうに違いない。
 「…ダルリーヴ(王太子)」
 何をするのか全く説明されず、うっかり着いてきてしまったダリアがここにきて事態の由々しさに気づき、賢明にルイナンの袖を引っ張ったが、既に遅かった。
 「…つまり」
 母妃ソフィーダはゆっくりと言う。
 「昨夜目が覚めたら寝所にどこかの姫がいて。何もせずに寝て朝になったらその姫が消えていたと。そしてルイナンはそれを全てわたくしの差し金だと思ったから、その姫にもう一度会わせろとわたくしに頼みにきた、というわけ。ね」
 「そうです!先日母上は俺に嫁をもらえと仰っていたではないですか」
 やっと話が通じた。が、勿論安堵している場合ではなかった。
 「だからって、わたくしがそんな手の込んでいる割に無意味なことをやるとでも思っているの、ルイナン!」
 「えっ…いやその」
 母妃の怒りに触れたことにようやく気づいたルイナン。きっと不肖の息子を見つめるソフィーダ。レーゼはソフィーダの横で気の毒そうにルイナンと娘を眺め、ダリアはルイナンの横でうつむく、と四人四様の有様。
 とはいえ、ルイナンには一つだけ言い分があった。
 「…母上。しかし、俺の話は全くのでたらめではないのです。見ていただきたいものがあります」
 「何?」
 まだあるのかと眉をひそめるソフィーダに、ルイナンはおそるおそる指輪を差し出した。
 レーゼが受け取り、両手に乗せてソフィーダに見せる。ソフィーダは手に取って少しだけ眺めた。
 「紋章?レーゼ、これに心当たりは?」
 「さあ…存じません」
 「わたくしも、こんな紋章は見たことが無いわ。これをどうしたの、ルイナン」
 「だから先ほども説明したとおり、その姫が俺の指にはめていったのです」
 「そこについては疑問の余地がかなりあるのだけど…いいわ、レーゼ」
 ソフィーダは優雅に手を翻して指輪をレーゼの手のひらに落とす。
 「サラディンに言って、この指輪の落とし主を捜して頂戴。そして速やかに返却するように。きっと困っているでしょうから」
 「― 母上!」
 今度はルイナンが怒る番だった。彼はレーゼから指輪を強引に取り返し、あろうことか母妃をにらみつける。
 「もういいです。俺が確認したかったのは、あの姫を母上がご存知かどうかということでしたから。その用事は済みましたから、失礼します。では!」
 あまりの捨て台詞にソフィーダをレーゼがあっけにとられているのをよそに、ルイナンは大股でその場を立ち去る。ダリアは慌てて後を追った。

神崎 瑠珠 * 王太子とヴァキアンの姫君 * 21:22 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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