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魔女とロマンスの詩 〜グンデン・ダーリーダの物語(1)

 「ねえ、ヴェル。ロマンスが見たいと思わない?」
 至上の魔女は言った。
 黒い子猫はただでさえ大きな眼を更に大きくして、ニャアと鳴く。
 「ろまんす」
 「そう、とびっきりのロマンスだよ。人生にはそういうのが必要になるときがある。そうじゃないこと、ヴェルニーヤ?」
 「僕には、よくわかりません」
 「ああら。ほんとにまだ子供なんだから。
 人生からロマンスを取ったら、何が残るっていうの?
 ヴェルにとっておきのロマンスを教えてあげないといけないね」
 「ろまんす…」
 「おいで、ヴェルニーヤ」
 至上の魔女は、黒い猫をさっと抱き上げて姿を消した。
 ロマンスの始まり。

1.
 「シンデレラ! 舞踏会よ、舞踏会に行くのよ! 今すぐ支度して!!」
 「はぁい」
 ―― 怒鳴らなくても聞こえてるし、言わなくても分かってるわよ。
 彼女は心の中で毒づきながら立ち上がり、姉の部屋に向かった。
 「お待たせしました。でも、髪結はまだ来てないと思いましたけれど?」
 「それがさっき使者が来て、とてもうちまで間に合わないとか言うのよ! 今日は皆注文がうるさすぎてどんどん引き止めるから、予定してたより遥かに時間がかかっているそうよ。ああ全く、とんでもないことだわ!」
 「そうよそうよ、いつも贔屓にしてやってるのに恩を忘れて! あとで目にもの見せてくれるけど、今はそれどころではないわ!」
 二人の継姉が口々に文句を言う有様を、シンデレラはとりあえず黙って聞いていた。
 その後、にっこり微笑む。
 「それは、大変ですね」
 「大変って! あんたは呑気でいいわね! あたくしの将来がかかっているというのに!」
 「あらっお姉さま、その台詞は聞き捨てならないわ! 将来がかかっているのはあたくしの方よ!」
 ―― どっちにも関係ないとは思うけど。
 「まあまあとにかく、それで私に髪を結えと仰るのですか?」
 『そうよ!』
 二人の継姉の声が揃った。
 今日、彼女らが住む王都にある城で、盛大な舞踏会が開かれるのだ。
 目的は、王子の嫁探し。
 王家の結婚といえば当然、恋愛より政略である。だからして、隣国やどうしても手を結びたい国と婚姻関係を結ぶのが普通であったが、どうも適当な姫がいない(らしい)のと、王子自身が強く希望したため、国内から花嫁を迎えることとしたらしい。
 ところがそれはそれで娘を持つ貴族の親たちが躍起になり、下手をすると内乱が勃発しかねない状況になったため、父王からの提案で「国中の貴族や資産家に招待状を出し、舞踏会を開く。その場で王子自身が決める。恨みっこなし」のルールが決まったそうだ。
 ―― 効率的っちゃ効率的だけど、乱暴なやり方だわね。
 …などとシンデレラは思うが、何しろ下級貴族などにとっては千載一遇のチャンスである。娘が王子妃、その後王妃になれば一気に王家の親戚入りである。家格も引き上げられるだろうし、安楽な暮らしは約束されたようなものだ。
 だからどこの家も気合を入れているのはわかる。仕立て屋など、その招待状が国中にばらまかれた日からお針子たちに休みどころか、ろくな睡眠時間も確保できぬ有様であった。
 シンデレラの家はといえば、父親は貿易商であった。爵位はない。つまり、条件としては「資産家」の方に当ったわけである。
 父は若い頃シンデレラの実母と結婚した。その実母が、シンデレラが13歳の時に他界してからしばらくはやもめ暮らしを続けていたが、親戚等のすすめにより1年ほど経ってから、遠縁にあたる金持ちの女性と再婚した。その女性には二人の連れ子がいたので、シンデレラにはいきなり二人の継姉が出来たのである。そして継母の資産を元手とした父の商売は大当たりをし、それまでは「普通の貿易商」だったのが、「王家から招待状が来るほどの豪商」になったのだった。
 シンデレラは初めて会った時からその酷薄そうな顔…というか表情をした継母を好きになることは出来なかったが、どうやら相手は相手で自分に懐こうとしない上に美貌を持ったシンデレラのことは1ミリも可愛いと思えなかったらしく、夫(つまりシンデレラの父)が貿易商という仕事柄留守がちなのをいいことに、シンデレラのことはいじめぬいた。当然二人の継姉もそれにならう。
 おかげでシンデレラは、女中も同然の生活を強いられた。家に金はあったので他に召使はたくさんいるというのに買い物、掃除、洗濯、それから継姉たちの世話など、仕事は継母や継姉たちの気まぐれによって決まった。有体に言えば、ただの嫌がらせであった。
 父親がたまに家にいるときにはそれなりに取り繕われたので、まだ助かった。父親から「何か不自由はないか」と聞かれたときは黙っていた。言ってもどうにもならないと本能的に悟っていたのもあり、父とも自分とも仲がよかった母が死んでからたった1年で再婚した父親に対するあてつけでもあった。
 今回の舞踏会もシンデレラ宛の招待状が来るには来たが、当然継母達はこなかったものとみなしたし、シンデレラ本人にも行くつもりはなかった。なんとなく嫌な予感がしただけで、それはまさに今的中しようとしていた。二人分の髪結はなかなかの重労働だ。おまけにああだこうだと注文をつけてくるに決まっている。やる前からシンデレラは既にうんざりしていた。
 「とりあえず、どちらを先にすればよいのですか?」
 『あたくしよ!』
 「…どっちですか」
 『あたくし!』
 ユニゾンで訴えられても困る。なまじ年子なので、譲り合うということが全くない姉妹であった。ちなみに18と17。シンデレラは今16歳である。
 「…とりあえずお継母様も必要でしょうから、そちらから先にしてまいります。その間に順番を決めて下さいね」
 つきあっても無駄だと思ったシンデレラは、早々に部屋を出た。


 継母は、自分の部屋に居た。
 シンデレラが入っていくと、その細い目をちらっと向ける。
 「何の用なの」
 「髪結がこられなくなったようで。お継母様も頼んでらしたから、お困りかと思って」
 「お前にしては気が利いているけれど、何故姉たちの方に行かないの」
 「お継姉様たちは、どちらが先にするか今決めてらっしゃいます」
 継母はフンと鼻を鳴らした。
 「わたくしは結構よ。お前に髪をいじらせても仕方ないわ。とにかくあの子たちの将来がかかっているのだから、そちらを念入りになさい」
 ―― 別にどれだけ着飾って行ったところで、関係ないと思うけど。っていうか、そこまで本気なんだったら、招待状が来た日から髪結を監禁しておくくらいのことは必要なんじゃなかったのかしら。
 「はい」
 「行くついでにハンナを呼んで、わたくしの髪を結うように言いつけて頂戴」
 「はい」
 ―― だったら継姉さんたちの髪もハンナに結わせればいいのに。
 顔で笑って心で毒づく。面従腹背という言葉の生ける見本がここにあった。
神崎 瑠珠 * 魔女とロマンスの詩 * 23:21 * comments(2) * trackbacks(0) * - -

コメント

あら、リーダ様にヴェルニーヤ!
お懐かしい!
「人生からロマンスを取ったら、残るのはヨシヒコ」なんていったら、リーダ様に叱られるかしら?(苦笑)

お話しの続き、ゆるりと期待してます♪
Comment by あり @ 2011/09/07 7:31 PM
覚えていてくれてありがとう!
…ヨシヒコが残っちゃうのか……そうかー…それはそれでいいかもなあ(笑)。

これは完結してるからだいじょうぶ…!なはず。
おたのしみに♪
Comment by かんざき @ 2011/09/07 10:15 PM
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