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王太子とヴァキアンの姫君 序

(注:この作品は「帝王妃ソフィーダ」の続編にあたります)

 …さあ、その目を開けて。

 長い夢の終わり。新たな物語の始まり。
 カリューンの恩寵のもと
 栄え満てるレスト・カーン
 
 その行く末を。



 二の大臣はその白い衣を翻しながら、王宮内を探し回っていた。
 とにかく、御前会議までには探し出さなければならない。でなければ、隙あらばさぼろうとする帝王に格好の理由を与えるだけになってしまう。
 「何?ダルリーヴ(王太子)が見つからない?それは困ったな、ゆゆしき事態だ。会議なんてやっている場合ではない。今すぐ探し出せ。会議はその後だ」
 口調まで全く正確に心の中で再現できたあと、彼は溜息をひとつついて本来あまり立ち入るべきでない場所に入った。
 基本は男子禁制の場所。つまり、後宮である。



 その中で向かった先は王女の部屋だった。 
 今上帝王アード・アル・レストと帝王妃レ・アル・ソフィーダの間に生まれた第一子、セット(王女)・ジャーリスである。
 彼女の部屋は、後宮内とはいえ母ソフィーダとは別の建物にあった。帝王アードが愛娘の為に作らせた御殿というわけである。
 二の大臣はその中にずかずかと入り、すっかり慣れた宦官や奴隷たちの挨拶を受けながら王女のいる部屋にたどり着いた。
 「ジャーリス様、失礼致します」
 「まあ」
 部屋の主セット・ジャーリスは、全く慌てずに笑った。
 御年十六歳。花のごとき乙女である。その美貌はどちらかといえば母似で…密かに噂されるところによると、怒ったときの顔がそっくりなのであった。
 漆黒の髪と瞳。薔薇色の頬に紅色の唇。白くすべやかな肌は、内側から光り輝いているように見える。体つきもほっそりと上品でありながら胸と腰は豊かすぎるほど豊かに実っていた。
 さすがは帝王と帝王妃の御娘、と誰もが認めるところである。
 二の大臣も彼女の前では恭しく膝をついた。ただし、顔は伏せない。帝王妃ではないのでその義務はないのである。勿論、ヴェール無しの顔を見るのは不敬にあたるが、ジャーリスは自分の部屋と言えどきちんとヴェールをしていた。あるいは、前もって訪問が分かっていたせいかも知れない。
 「こんにちは、ジール。いきなり、なんの御用?」
 二の大臣ジール・ガリスは恭しくもきっぱりとした口調で言う。
 「非礼を承知で単刀直入に申し上げます。まもなく御前会議が始まりますので、ダルリーヴをお引き渡し下さいませ」
 「…」
 ジャーリスは笑顔をたたえたまま、じっと二の大臣を見つめた。
 自分の読みは間違っていないと確信しているジールは、そらすことなくまっすぐその目を見返す。
 と、彼女はいきなり自分が座っていた長椅子のクッションを取り上げ、後ろを振り向いて容赦なく振り下ろした。
 「ですって、よ。出てきなさい、ルイナン!」
 「痛っ」
 長椅子の後ろに隠れていた人物は、頭を押さえながら立ち上がる。
 「姉上、俺を裏切った上にクッションで叩くなんてひどいぞ!」
 「わたくしはお前をかくまうとは言ったけれど、引き渡さないと言った覚えはないわ。いつもいつも庇ってもらえると思わないことね」
 ジャーリスは、動じる気配もない。
 「庇ってくれたことの方が少ないくせに…」
 ルイナンと呼ばれたその王太子は小さく文句を言いながら、しぶしぶ前に出てきた。
 アル・レスト・ルイナン。当代の王太子である。アードとソフィーダの間に生まれた第二子にして第一王子であった。御年十五歳である。
 若い頃のアードによく似た感じで、いくぶん軽薄な感じはするが女性にもてそうな男ではあった。ジャーリスという姉が居るせいか、周囲の人間がつい世話を焼きたくなるような愛嬌を持っている。
 「何かわたくしに文句でもあるのかしら」
 「姉上はもっとお優しいと思っていましたってことです」
 「じゃあ、お母様にお話ししてみましょうか?ルイナンは御前会議をさぼりたがっておりますと」
 「…」
 「ごめんなさいは?」
 「…ごめんなさい」
 「あら、カリューン信徒の長になるべき身が、そんなに簡単に謝っていいのかしら。安いわね、ルイナン」
 「…」
 姉には全く勝ち目がない。
 そこでジールがひとつ咳払いをした。
 「ジャーリス様。そろそろお引き渡し願えますでしょうか」
 「ああ、そうね」
 ジャーリスは笑顔で弟を引き渡し、ルイナンはうなだれた。

(続)
神崎 瑠珠 * 王太子とヴァキアンの姫君 * 22:55 * comments(2) * trackbacks(0) * - -

コメント

きゃー、待ってました♪
パソコンの調子が悪いので、今更ながら読ませて頂きました。
ジャーリスが素敵(ていうか「無敵」)だし、先が楽しみです。
ホントに、「SP」の映画より早かったね(笑)。
Comment by あり @ 2010/03/07 5:12 PM
読んでくれてありがとう!!
パソコン、なんとかなりますように(汗)。
ジャーリスを気に入ってくれてありがとう。これから色々新キャラも出てくる(はず)なので、よろしくです♪
「SP」の映画より早く出来てよかった〜〜♪
Comment by かんざき @ 2010/03/07 9:32 PM
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