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魔女とロマンスの詩 〜グンデン・ダーリーダの物語(2)

2.
 「グンデン・ダ・リーダ、ろまんすとはこういうものですか?」
 黒い子猫はみぃみぃと泣いている。
「こういうところから始まるのよ。ヴェル、貴方ならこの女の子にどうしてあげたい?」
 「だって…シンデレラは何も悪いことをしていないのでしょう?」
 「そうねえ。少なくとも、表立ってはね」
 「だったら舞踏会に行かせてあげたいです」
 「そうだねえ。でも、シンデレラ自身が舞踏会に行きたいかどうか、わからないよ?」
 「行きたいと思います」
 「どうして?」
 「だって、…なんか、自分だけ行けないのは悲しいです」
 「そうね。でも、彼女はきっと自分が悲しいってことにも、自分が自分を殺してるってことにすら気付いていないわ。ロマンスのためには、それじゃいけないわね」


 髪も結い終わり、父親が気合を入れて他国から仕入れてきたドレスをそれぞれに身にまとった継姉たちは、継母につれられてお城に向かった。
 シンデレラは勝手口を出たところの石段に座り、ふうと溜息をつく。
 全く大変だった。姉たちの髪を結うのにどれだけかかったことか。
 髪を結うだけならどうということはない。元々手先は器用だったし、実母とはよく髪の結いあいやドレスの着せ替えをして遊んだから、基礎はある。
 作業そのものの問題ではなく、単にモチベーションの問題だった。
 ここが気に入らないあそこが気に入らないやっぱり前の方がよかった等々。
 玉の輿を目の前にして張り切る気持ちはわからなくもないけど、こんなのを選ぶような人間が王子だとしたらこの国に未来はないから、まあ選ばれないと思いたいわね。とシンデレラは意地悪なことを考えた。
 継姉たちは出て行くときに揃ってシンデレラに聞いた。
 「本当は、お前も行きたいんじゃなくて?」
 「どうしてもというのなら、あたくしのお古のドレスを貸してあげてもよくてよ?」
 「ね、行きたいのでしょう?」
 何とかしてシンデレラを羨ましがらせたいという継姉たちの意図は明白だったから、シンデレラはにっこり笑って首を振り、「いいえ、そんな」とか「とんでもない」とかそういった言葉でお茶を濁したのだった。
 そのやりとりを見ていた継母はといえば、かすかに口元をゆがめただけだった。それだけでシンデレラには十分不愉快だった。
 勝手口からはお城が見える。
 明かりが煌々とつき、夕暮れの今ひときわ輝いて見えた。
 今頃、招待客がぞくぞくと集まっているのだろう。
 「一晩で、相手なんて見つかるのかしらね」
 そう言い捨ててシンデレラが立ち上がろうとしたとき。
 目の前に真っ黒な子猫が現れた。
 「こんばんは」
 「!」
 喋る猫なんてはじめて見た。
 「シンデレラですね。僕は、ヴェルニーヤ。猫です」
 ちっちゃいくせにしゃんとして、いかにも一人前の猫であると見せているところがかえって面白かった。シンデレラはちょっと落ち着いた。
 「ああ…びっくりした。どうして私の名前、知ってるの?」
 「それは、グンデン・ダ・リーダが教えてくれたからです」
 「グンデン…?」
 「魔女です」
 「魔女!?」
 「僕にごはんをくれるひとです」
 「…飼い主ね」
 「そうともいいます」
 「で、私に何の用なの?」
 「シンデレラは、お城の舞踏会に行きたくはないのですか?」
 シンデレラの表情がやや不機嫌になった。さっきまで継姉たちにさんざんされていた質問だ。
 「別に、どうでも」
 「本当に?」
 「行ってどうするのよ」
 「どうって…」
 「何百人も来てるのよ。苦労して着飾ってそんな中に行ったっていいことないじゃない」
 「あるかもしれないじゃないですか」
 「無駄よ」
 ヴェルニーヤはその銀色の丸い瞳をますます丸くした。
 「じゃあシンデレラは、何がしたいですか?」
 「何って…」
 彼女はしばらく考えた。考えながら足元にいるヴェルニーヤをごろごろと撫でる。ヴェルニーヤは、ニャアと鳴きたくなるのを必死に我慢していた。
 「いっそ継姉さんたちのどっちかが、お妃に選ばれたらいいなあと思うわ。そしたら私も用無しだろうから、そしたらお父さんからいくらかお金もらって、外国に行きたい。
 遠い所へ」
 「遠い所で、何するですか?」
 「なんだろうね。それこそ髪結でもやろうか。なんでも出来ると思うよ。なんでもやってきたから」
 「でも、さみしくないですか?」
 「なんで?」
 「お友達とか、遠くなっちゃうでしょう?」
 「別に、それはどうでもいいけど…お母さんのお墓から離れるのは、ちょっとつらいね」
 「遠くに行ったら、シンデレラは幸せになれるですか?」
 「わかんない。なりたいなとは…思うよ」
 「お妃さまになるのは幸せじゃないですか?」
 「だから、なれないってば」
 「どうして決めるですか。シンデレラはきれいです!」
 「えぇ?」
 今度はシンデレラが目を丸くする番だった。まさか猫に容姿を誉められるとは思わなかった。
 「…ありがと」
 「だって、本当のことです」
 「はい、ヴェル。そこまでにしなさい」
 次にシンデレラの前に現れたのは、翠色の魔女。
 「グンデン・ダ・リーダ!」
 「てことは…あなたが、この猫ちゃんの飼い主?」
 「まあそんなようなところよ。はじめまして、シンデレラ」
 「はじめまして。
 あなたたち、なんなの? いきなりふってわいて、私の何を知ってるの?」
 「色々よ。
 とびっきりのロマンスがあなたに隠れてることもね」
 「ロマンス?」
 「そう、ロマンスよ」
 魔女はにっこりと笑ってみせた。
神崎 瑠珠 * 魔女とロマンスの詩 * 22:41 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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