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魔女とロマンスの詩 〜グンデン・ダーリーダの物語(4)

「お姫様、お疲れ様でございました。かぼちゃは、わたくしめがお預かりいたします」
 「は?」
 急いで勝手口に戻ったシンデレラは呆然とした。
 お城に使える従者のように身なりのきちんとした男から、いきなり声をかけられたのだ。
 深緑色の、スマートな服を着ている。
 「あの…」
 「姫様はこちらへ。魔女が待っております」
 呆然とするシンデレラからかぼちゃを受け取り、男は先頭に立って歩き出した。
 家の正門に向かう。
 「ちょっと、あの…」
 男はそれ以上何も言わず、すたすたと歩いて行く。シンデレラも従った。
 家の正門にはかぼちゃを持った男と同じ服を着た男が5人と、真っ白な馬が6頭もいた。
 「おかえり、シンデレラ」
 翠色の魔女と、黒猫もいる。
 「どういうこと、これは?」
 「魔法よ。さ、かぼちゃを頂戴」
 男は魔女の前にかぼちゃを置く。
 魔女が優雅に手をかざして一振りすると、かぼちゃはあっというまに大きくなり色と素材を変え…なんと、立派な馬車になったではないか!
 シンデレラは息もつけなかった。
 男たちは何事もなかったかのように馬を馬車につける。
 「ちょ、ちょっと、家の前でこんなことしたら誰か出て…」
 「こないわよ。見えないようにしてあるから。やっぱり、楽屋は見せないようにしないとね」
 「…本当に、魔女なのね…」
 「疑ってたの? そうよ、ちゃんと魔女よ。だから、貴女が舞踏会に行く準備は整った。どう?」
 「…ってことは色からして従者が蜥蜴…で、馬がネズミ?」
 「察しがいいわね。その通りよ」
 「…ぞっとしないわね」
 「無から有は生み出せないのよ。ま、こういうのもいいわよね」
 「悪くないけど…。
 でも、私着ていく服なんてないんだけど…それに、今から髪を結うとしたら、とても…」
 「そんなの分かってるわよ。ロマンスを探しに行くのに、ドレスは大事だわ。とってもね。女なら当然よ。ほら!」
 魔女はまたさらりと腕を振った。
 あっというまにシンデレラのボロ服はまばゆい水色のドレスに変わった。
 「ええっ!?」
 庭を駆けずり回ったおかげで汚れていた手足も風呂に入ったかのように清められ、ふんわりと良い香りを漂わせている。
 髪もきちんと結われ、アクセサリーもつけられていた。
 「どう? なかなかの腕だと思わない?」
 魔女は言いながら鏡を出した。
 「…」
 シンデレラがおそるおそる覗きこむと、そこにはすっかり見違えるような自分の姿があった。
 美しく結われた金髪。大きな蒼い目。すんなりと白く伸びたデコルテライン。それらを引き立てるドレス。さりげなく宝石が刺繍されていた。首にはダイヤのネックレス。耳には同じくダイヤのイヤリング。
 何より違うのはシンデレラの表情だった。
 美しく装った自分を見てうっとりとしない女は居ない。シンデレラは自分に初めてどきどきしていた。
 「シンデレラ、とても綺麗です! 素敵です!!」
 ヴェルニーヤがにぃにぃと暴れている。
 「…」
 「やっぱりね、宝石は磨かなきゃね。さて…と、最後の仕上げよ、シンデレラ。
 この靴をお履きなさい」
 魔女が取り出したのは美しく虹色に光るガラスのような靴だった。
 布靴ではないのが意外な気がしたが、シンデレラはうっとりとみとれる。
 「これはね、貴女の足にしか合わないのよ。そういう風に作ってあるの。
 これを履いていればダンスも上手に踊れるし、決して足も疲れないわ。魔法の、ガラスの靴よ。素敵じゃない?」
 「素敵…」
 蜥蜴の従者が魔女からその靴を受け取り、シンデレラの前に恭しく差し出した。果たしてその靴は、シンデレラの小さな足にぴったりと吸いつくように合う。
 「さあ、完璧よ。シンデレラ、行ってらっしゃい」
 魔女は従者に合図を送る。従者はかぼちゃの馬車のドアを開け、シンデレラが乗る手助けをした。
 乗り込んだシンデレラは馬車のカーテンを開けて顔を覗かせる。
 「ありがとう…なんてお礼を言ったらいいか…」
 「お礼を言うのはまだ早いわよ。
 いいこと、シンデレラ。私が出来るのはここまでよ。
 ロマンスは自分でつかむこと。自分の中にある可能性を、ちゃんと信じてあげるのよ。
 それから、午前様は駄目。十二時の鐘が鳴る前に、必ず帰っていらっしゃい。
 十二時になったら魔法は解けるからね。残るのはその靴だけよ。馬車も無くなってしまうから、帰るのが大変よ」
 「わかったわ。でももし、王子が私の運命の相手じゃなかったら?」
 「それでもいいの。貴女がその装いで、自分で勝ち取ったロマンスであれば相手が王子であろうと乞食であろうと、貴女の幸せになることは間違いないから。
 ま、願わくば王子が貴女の好みであることを祈るけどね」
 「私も、そう思うわ」
 シンデレラの楽しそうな笑顔を、魔女は満足そうに眺めた。

 馬車が、出発した。
神崎 瑠珠 * 魔女とロマンスの詩 * 22:54 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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