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王太子とヴァキアンの姫君 (12)

 次に向かったのは、父王アードのところである。

 最初からあまり当てにならないと思ってはいたが、
 「何!? 目が覚めたら隣に美女が? うらやま、いや、けしからん。それは全くけしからん。調査をしなければならないな!」
 「あ、いえ、失礼します」
 予想のはるか下をいく有様だった。
 「ルイナン様、よいのですか? 一応、調査だけでも」
 ダリアがとりなしたが、
 「あんなにやけている父上に何が出来る。もし見つかったら父上の方が言い寄って母上が激怒して、大変なことになるぞ」
 「…」
 否定出来ないのがつらいところだった。


 二の大臣ジール・ガリスが宮殿に出仕してきたのは、しばらく後だった。
 彼は出仕した途端、宮殿内の雰囲気がいつもと違うことに気づいた。しかし、今日は特にこれといった行事がある日でもない。それなのに、妙に侍従や女官たちがばたばたとしている。
 「なんだこれは」
 「二の大臣!」
 誰かに訊いてみようと思っていたところに折よく駆けてきたのは、まだ若き九の大臣、イスハーク・マリクだった。二の大臣ジールが白い衣を着ているのに対し、九の大臣の衣装である緑色の衣を身に着けている。その若々しい緑色がよく似合う、顔立ちのすっきりと整った男だった。やや異国風の容貌をしているが、それは彼の母方に外国人の血が入っていることに由来する。血によるのは顔立ちだけではなく、背が図抜けて高い。長身で知られる名誉警察総監サラディン・ルールをもしのいだ。ただ、サラディンがそれに見合った鍛え抜かれた筋肉を持っているのに対してイスハークは細いだけだったから、その長身を持て余しているように見えた。どちらかといえば色白の肌で、暗い灰色の髪は無造作に伸ばして後ろで束ねている。目は髪よりは濃い灰色で、殆ど黒に近かった。
 大臣となる者の大多数はレスト・カーン内の学校を卒業した後、宮殿で侍従等の仕事をしながら主に父親から政治について教わって出世するという経歴を辿るのに対し、イスハークは、本人の意志によって学校を出た後すぐに2年程外国の学校に留学し、父の死によって帰国し家督を継ぐと同時に九の大臣の位を授かったという、かなり珍しい経歴の持ち主である。勿論、九の大臣の位についてはジールの力があった。彼としてはレスト・カーンの安定をはかるには、イスハークのように外国を実際に体験してきた人物の登用も必要だと考えていたのである。勿論、次期帝王ルイナンの手足にするために育てるつもりもあった。
 イスハークにとっては帰国してすぐに九の大臣に処されるなど望外の出世であったから、戸惑いはあれどジールに大変な恩を感じている。
 以上は余談。
 九の大臣イスハーク・マリクは、ジールに対しまず律儀にお辞儀をした後報告した。
 「一大事でございます。ダルリーヴ(王太子)がご乱心あそばしたご様子」
 「何!?」
 行事どころの話ではない。ジールは即刻ルイナンの部屋に向かうことにした。イスハークもならう。二人は道すがら話した。
 「一体どういうことだ」
 「それが、御寝所に居た姫を出せとの仰せで」
 「さっぱり分からないな。何だそれは。九の大臣なら九の大臣に相応しく、報告の仕方を考えろ」
 「申し訳ありません。私も先程報告を受けまして。何でもダルリーヴは真っ先にマジェスティーナ(帝王妃)のところに行って食って掛かられたそうです」
 「…よくご無事だったな」
 「正直なところ私もそう思いますが、とにかくそれからマジェスティ(帝王)のところに行かれ、大臣や侍従を捕まえては空振りし、終いには嫌になられたご様子で、女官のダリア・ルールのみを伴ってご自分の部屋に籠られてしまったそうで」
 「行動は分かったが原因が分からん」
 ジールは言い捨てた。申し訳ありません、とイスハークがもう一度頭を下げる。何がなんでもルイナンから直接話をきかねばならないようだった。

(2012/1/17)
神崎 瑠珠 * 王太子とヴァキアンの姫君 * 22:03 * comments(2) * trackbacks(0) * - -

コメント

きゃあ、お待ち申し上げておりました♪
みんな、ソフィーダ様が怖いのね(笑)。
そりゃあ、頭脳明晰な美女が怒るのは帝妃でなくとも恐ろしいもんね。
続きも楽しみにしてますわ♪
Comment by あり @ 2012/01/16 11:14 PM
ありがとう!
…ほんと遅くなってすまないです…。

言われてみればそうだね、書いてるときは意識してなかったけど、読み返したらみんなどうにかして「怒ったソフィーダ」を避けようとしてるなあ。
美女が怒るってだけで恐ろしいよ!

随分中途半端なところで切ってしまったから、続きは早々に載せます。
(早々?)
Comment by かんざき @ 2012/01/17 10:31 PM
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