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魔女とロマンスの詩 〜グンデン・ダーリーダの物語(7)

 そういえば、城内は騒がしい。
 娘たちが王子探しに躍起になっているせいだ。
 もしシンデレラにグンデン・ダ・リーダのような魔法が使えたとしたら、城の厨房まで上を下への大騒ぎになっている様が見て取れただろう。ドレス姿でここまで登ってくる他の娘は居なかったので、屋根の上は静かなままだった。
 「そういえば、君は王子様を探しにいかないの?」
 だいぶ経ってから、男が口を開いた。
 「あなたこそ女の子を探しにいかなくていいの? 今日は王子様以外の人にも出会いのチャンスが与えられている日なのでしょ?」
 「もうちょっとしてほとぼりがさめた頃に行こうと思ってたら、君が来たからいいかなと」
 「あら、私のことは気にしなくてもいいわよ」
 「…僕の質問に答えてないと思うんだけど、君は行かないの?」
 「あなたと同じ。王様の説明を聞いて、焦っても仕方ないと思ったの。で、お城に来る機会なんてそうそうないと思ったから、お城からの景色を見たいと思って。階段を登ってたらここに着いたわ」
 「もし君が王子を見つけて結婚したとしたら、ここは君の家になるわけだから、今急いで見に来るより、王子を探すことに専念した方がいいんじゃないの?」
 もっともな言い草だが余計なお世話だ、とシンデレラは思った。
 「急いだからって見つかるの?」
 「時間が限られてるんだから、なるべく急いでたくさんの人に当たった方が、当たる確率が高いんじゃないかな?」
 「相手が名乗ってくれればね。ルールとして、自分が名乗っても相手に名乗らせてもいけないんだから、結局のところ自分の運と勘に頼るしかないじゃない。焦りはそういうものを鈍らせるわ。だから、私は焦らないことに決めたの」
 「ふぅん」
 男は、大いにシンデレラに興味を持ったようだった。
 「あ、でもね。相手は見つけなきゃいけないの。家を出るから」
 「ええ? 君は本当に意外なことばかり言う人だね。見たところどこかのお姫様なのに。何故?」
 「それは秘密。身の上話をするってことは、名前を言うことと変わらないと思うから」
 「なるほど」
 ―― 見たところどこかのお姫様、か。普段のボロを見たらこの人、なんて言うんだろう。
 幾分ほろ苦い思いでシンデレラが男の台詞を反芻していると、不意に何か気配を感じた。
 彼女の頬に男の唇が触れていたのだった。
 「何するの!?」
 「君を好きになったから、伝えようと思って」
 さすがのシンデレラも、言葉が出なかった。
 男は、素直に笑っている。
 「…あなた、惚れっぽいたちなの?」
 「違うよ。君と同じで、焦らないで見つけたいと思ったんだけど、見つけてしまったから。だから、君が他の人を探しに行く前に僕を選んでくれたら話が早いと思って」
 「あなたって人は…」
 「好きだよ」
 「そんなこと言って、仮面を取って私がすごく変な顔だったり、実はすごく性格悪かったりしたらどうするのよ!」
 「本当にそんな人は、そういうこと言わないから大丈夫だよ。それに、こんな場所を好きにならない」
 もっともかもしれない。
 カンテラの灯りしかなくて、顔色がはっきり分からないことにシンデレラは感謝した。顔がほてっているのが自分で分かる。
 「あなたのこと、好きにならないかもしれないわよ。そうしたらどうするの?」
 「それは考えてなかった。困ったな」
 一瞬男は考え込む様子を見せたものの、すぐにまた笑った。
 「そうしたら頼むことにする」
 「?」
 「僕のことを好きになって。僕は君のことを好きだから、安心して好きになってくれればいいよ。って」
 「あなた…人からバカじゃないかって言われること、ない?」
 「今初めて言われた。で、僕のこと好きになってくれないかな。
 君の望み通り、ちゃんと家を用意してあげるから」
 逃げようがない。シンデレラは窮地に追い込まれてしまった。
 そしてそのとき鐘が鳴り響き、あちこちに号令がかかる。
 「お嬢様方並びにお相手の方々は、大広間にお戻り下さい!」
 「間もなく、舞踏会が始まります!」


 「グンデン・ダ・リーダ、プロポーズです!」
 「…さっきから気が早いなあ、ヴェルは。一応、まだ分からないわよ」
 「でもでも、あの人はシンデレラの運命の人なのでしょう?」
 「シンデレラは運命に抗ってしまうかもしれないけどね」
 「だめです! せっかく運命の人にプロポーズされたんだから、受けないとだめです!」
 「そんな強引な。ちょっと、ヴェル。だめよ、絶対だめ。二人に任せるの! ごはんあげないよ!」
 うにうにと魔女の腕をすり抜け、したりと屋根に降りようとした黒い小さな猫は、最後の一言で渋々くたりと力を抜き、切なそうに鳴いた。


 舞踏会が始まる。
 さっさと大広間に戻らなければならないが、シンデレラと男はまだ屋根の上に居た。
 シンデレラが返事をしないからである。
 男もそれ以上せかさなかった。
 そうすると却って言いづらい。
 「…まだ…好きかどうか…なんてわからないわ」
 つっかえつっかえ、小さな声でそれだけを言ってみた。
 「そりゃそうだろうと思うよ。さっき初めて会って、名前も知らないし」
 「…それでも、いいの?」
 「そういうこともあるんじゃないの。これから好きになってもらえれば。少なくとも、この舞踏会の趣旨はそういうことだと思うんだけど」
 「それで…いいの…」
 なんだかシンデレラは拍子抜けした。
 「とりあえず出会えたから、いいんだよ」
 男は立ち上がり、屋根の上だというのに実に恭しく優雅にお辞儀をする。
 「美しい姫。僕と、踊っていただけませんか?」
 差し出されるその手を、シンデレラは実に不器用に、そっと取った。

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神崎 瑠珠 * 魔女とロマンスの詩 * 23:29 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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