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魔女とロマンスの詩 〜グンデン・ダーリーダの物語(8)

3.

 シンデレラとその男が大広間に入る前に、音楽が始まってしまっていた。
 思い思いの相手と組になった娘たちが既に到着している。
 その中には今シンデレラの隣に居る男よりも良い(とシンデレラには見える)身なりをした男性も居た。
 だが、それでも自分の隣にいる男が王子その人だろうという予感が消えない。
 シンデレラは思わず深呼吸をした。その様子をちらっと見て男が笑う。
 「大丈夫、きっと君が一番綺麗だよ」
 「何言ってるのよ」
 音楽が始まった。
 ダンスなんて知らない、と一瞬焦りかけたが魔女の言葉を思い出して安心する。そういえばガラスの靴は初めて履いた靴にも関わらず、足は全く痛くなっていない。
 この分ならダンスが上手に踊れるというのも本当なのだろう。
 「踊れる?」
 「失礼ね」
 イントロが終わり、ダンスが始まった。
 シンデレラは正直ダンスなどかじったことしかなかったが、足は優雅に運ぶ。手は男に任せておけばいいのだ。
 果たして男は実に優雅に踊っていた。
 「上手だね」
 「あなたこそ」
 いつの間にか二人は大広間の一番真ん中に居た。
 そのまま音楽が止まる。
 「それでは、まだ名乗ることは禁じるが、仮面だけは取るように!」
 王の言葉に、大広間にいる大多数の人間が緊張した。
 シンデレラも例外ではない。仮面を取る勇気がまるで出なかった。大広間では既に仮面を取ったカップルから悲喜こもごもの声があちこちで上がっている。
 「やっとお許しが出たね。では失礼します、お姫様」
 言葉に驚いて彼女が驚いて顔を上げると、そこにはあっさりと仮面を取った男の素顔があった。
 そういえば仮面の顔すら、カンテラの灯りしかなかったおかげでろくに見られていなかったのだ。
 緊張がおさまりきらなかったシンデレラの心臓が、また大きく音を立てる。
 ゆるく波打ったダークブロンドの髪。優しく深い、ほとんど黒に近い蒼の瞳。すべやかな肌。整った顔立ち。そして自分に、自分だけに向けられている笑顔。
 シンデレラはその場にへたりこみそうになった。
 こんな人が実在するのだろうか。
 それより、自分はこんなに面食いだったのだろうかという割とどうしようもないことを考えてしまった。
 動かないシンデレラに代わって、男が彼女の仮面を取る。
 触れられただけで、その場所に火がついたように熱くなった。
 「うわぁ…本当に綺麗だね」
 「…あなたが?」
 「なんで僕が。君だよ」
 「嘘。あなたの方が綺麗よ」
 シンデレラの正直な言葉だった。
 「…ありがとう、と言ったらいいのかな。僕は男だから綺麗って言われてもピンとこないけど。それよりさ、君が本当に綺麗で嬉しいよ。本当に一番綺麗だ」
 「だから、何言ってるのよ」
 「本当にそう思ったから言ってるんだよ。お願い、僕を好きになって」
 男はシンデレラを抱き寄せ、彼女の顎にそっと片手を当てて上向かせ、じっと見つめた。
 「…何するの」
 「お願い」
 「駄目よ、こんなことしちゃ」
 「どうして?」
 「あなたのことを…好きになるわ」
 溜息とともに、彼女は小さな嘘をついた。本当はもう、多分とっくに恋に落ちている。
 「じゃあずっとこうしている」
 「どうしようもない…人ね」
 「好きだよ」
 そっと唇が重ねられた。


 「うわぁうわぁ、グンデン・ダ・リーダ! シンデレラがちゅぅをされてしまいました! みんなの前ですけど、いいんでしょうか!」
 黒い子猫はもう大興奮である。
 「いいのよそんなの。ギャラリーなんて放っておきなさい。ああ、それにしても期待を裏切らないロマンスねえ…素敵だわ…」
 魔女は自分の見たかったものが見られたおかげで、至極ご満悦であった。
 「それにしてもシンデレラは、おうちにいたときとはまるで別人のようですね。着替えた後と比べても、なんだか違うような気がします」
 「恋は女の顔を変えるものなのよ。とてもいい表情をしているじゃない。シンデレラはどうやら運命に抗うのをやめたのね。いいことだわ」
 「僕が助けてあげなくても大丈夫だったですね。よかったですね、シンデレラ」
 「ヴェルがあのとき入ってたら、台無しだったわよ。ちょっと反省しなさい」
 首の後ろをぎゅうっと引っ張られた猫はそういうものかな、と言われた通り少しだけ反省をした。

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神崎 瑠珠 * 魔女とロマンスの詩 * 17:38 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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