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魔女とロマンスの詩 〜グンデン・ダーリーダの物語(9)

 舞踏会もたけなわである。
 大広間は色とりどりの花で埋め尽くされたようだった。
 音楽が続き、あちこちで恋が生まれてゆく。

 「少し、休む?」
 相手の男に聞かれたシンデレラは、そっとうなずいた。
 足が疲れたわけではないが、体力には限界がある。それに、何か食べたくもあった。
 ―― このへん、私のお里が知れるわよね。
 自嘲気味に笑う。
 男はシンデレラを優雅にテーブルまでエスコートし、そばに居たボーイから上手く葡萄酒を受け取る。
 「あと、ちょっと待って。先に食べてて」
 「え? ええ」
 そのまま男はどこかに行ってしまった。よく分からないままに、シンデレラは周りの真似をして料理を食べることにした。
 さすが、城の料理は違う。実に美味だ。葡萄酒もごく上等のものである。
 美味しいと人知れず笑顔になったシンデレラだったが、次の瞬間ふっと目に入ったもののおかげで、一気に味が失せた。
 テーブルの向こうにいたのは、継母と継姉たちだった。


 「美味しそうですねえ、グンデン・ダ・リーダ…」
 「そうねえ」
 「僕も食べたいです。ニャア」
 「ヴェルは帰ってからごはんだね」
 「いやですー。今食べたいですよぅ」
 小さな黒猫はいやいやと首を振った。魔女はよしよしとあやす。
 「だってほら。今はちょっと目が離せないじゃない?」


 別に悪いことをしていたわけではないが、シンデレラは思わず目を逸らしてしまった。
 苦手意識がそうさせたのかもしれない。
 それから少しずつ目の端で様子をうかがう。
 継姉たちにも一応は相手がいるようだった。着ている物で選んだらしく、えらく成金趣味の男たちと一緒にいる。
 ―― 誰か見つかったのなら、いいか。
 その時つと継母の視線が動いたような気がして、シンデレラは慌てて顔を背けた。
 恐ろしい勘だ。これだからあの継母は苦手だ。
 確認しようにも視線が動かせない。早く帰って来て、とシンデレラは切に願いながらワインを飲むしかなかった。時間がやけにかかるように思えた。
 「お待たせ」
 「ああ…」
 ほっとしたのが顔に出過ぎてしまっただろうか。
 「どうしたの? 僕がいなくてそんなに淋しかった?」
 「そういうことじゃないのよ。それより、どうしたの?」
 「ああ、これ。食べるでしょ?」
 男が差し出したのは、貿易商を父に持つシンデレラでさえ見たこともない焦茶色の小さな食べ物だった。カクテルグラスにほんの2粒だけ入っている。
 「な…なに? これ」
 「知らない? 食べてみて」
 「食べられるの?」
 「多分、君は好きだと思うよ」
 「…」
 半信半疑ながらもシンデレラはその1つをつまんで口に入れる。一瞬の苦さの後、甘さが口に広がる。少し酒も入っているのだろうか。いい香りもした。
 「なに、これ?」
 「媚薬」
 「な…!」
 「美味しい?」
 「…美味しいとか不味いとかはともかく…あなた、本当に突拍子もない人ね」
 「それで君が僕を好きになってくれればさ」
 「図々しい」
 シンデレラは残り1粒をつまんで男の口に放り込んだ。


 「良い雰囲気ですねえ」
 「これからが勝負よ。なにしろまだ名乗ってないんですからね。それに…」
 「それに?」
 「門限も守ってもらわないといけないしねえ」

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神崎 瑠珠 * 魔女とロマンスの詩 * 22:14 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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