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魔女とロマンスの詩 〜グンデン・ダーリーダの物語(11)

次の日。


 殆ど寝ないまま起きたシンデレラは、眠い目をこすりながらいつもの家事を行っていた。寝ないだけならまだ我慢の仕様もあったが、昨日は初めてのことを色々体験してきたので体が疲れている。
 シンデレラより遅く、夜というより明け方に帰ってきた継母と継姉たちは、当然寝ていた。勿論その方が気楽でよかった。
 彼女たちが起きてきたのは昼過ぎだった。
 夕方まで寝てくれていればいいのに、とシンデレラは思ったが、起きてしまったものは仕方がない。起きた途端貪欲に食事を要求する彼女らの給仕をする羽目になった。
 「シンデレラ、昨日は残念だったわね」
 「そうですね」
 残念の意味が継姉とシンデレラとでは勿論違ったが、それは言わなくてもいいことだ。
 「結局、王子様の花嫁は決まったのですか?」
 それがあんたたちのどちらかだったとしたら、今そんな寝ぼけ顔で昼食を食べてるわけないと思うけどね。
 「それが、すごいのよ」
 水を向けられた継姉の一人は、堰を切ったように喋り出した。
 「王子様のお相手だった方が、名乗りが許される前に突然姿をくらましてしまったのですって。靴を片方お忘れになっていったことと、王子様ご本人しかその方のお顔をみてらっしゃらなかったので、結局その場にいる全員がその靴を履かされたけど、誰一人合わなかったのよ」
 翠色の魔女の魔法は、シンデレラが思っていたより繊細ですごいものらしかった。あれだけ娘がいたら同じ大きさの足の持ち主の一人や二人、居そうなものだ。シンデレラにしか合わない靴、というのは本当だったのだ。
 「結局、その方は本当にお帰りになったのだろうということで、王様は諦めなさいと王子様を諭されたのだけれど王子様はまるっきり聞く耳をもたなくて、ねえ」
 「そうそう。で、どうすることになったと思う?」
 「さあ…」
 見当もつかないながら、シンデレラの鼓動は自然と速くなっていった。あの王子はどうするつもりなのだろう。
 「おそらくそのお相手の方はこの王都にお住まいの方だからっておっしゃって、これから2日間、王都の関所を封鎖することになったのよ。王子様は見つかるまでとおっしゃったけど、王様がそれ以上は国民に不自由を強いることは出来ないからって、ぎりぎり2日に縮めたの」
 「その間、そのお相手の方を王都中探しまわるつもりらしいわ。ロマンティックよねえ」
 ロマンティックというか、そこまでやるつもりなのか。シンデレラは少し背中がぞくっとした。
 あの人は本気で私を捜そうとしている。
 本当にまた会えるかもしれない。
 ところが、その時。
 「シンデレラ」
 それまで黙っていた継母が、静かに言葉を発した。その表情は酷薄なままで、声音だけが微妙に作られていた。
 「舞踏会の準備で、お前にも随分労をかけましたね。少し休むといいわ。2日間ほど部屋でゆっくりしなさい」
 「…」
 「外に出る必要はありません。部屋でゆっくり休むのよ」
 やはり、継母は気づいていたのだ。
 「お姉さんたちの相手は舞踏会で本当に良い方達が見つかったし、王子様のお相手探しに我が家は何も関係ないわ。しばらくお父様も帰って来ないし、ゆっくりなさい、シンデレラ」
 一言一言を、含むように継母は言った。


 シンデレラはその後、半強制的に3階の部屋に追いやられた。
 よくしたもので、父のために空けてあるその部屋はスイートルームの作りになっていて、バスルームも併設されている。食事は他の使用人が持ってきてくれるそうで、外に出るどころか部屋から出る口実すらなかった。
 勿論、部屋の戸には外から鍵がかけられている。鍵は継母が持っているそうだ。窓はあるが、なにぶん3階な上に足がかりになりそうなものがない。エプロンのポケットに入れていたガラスの靴を見つけられなかったのだけが幸いだった。見つかっていたら取り上げられていたに違いない。
 彼女はしばらくその部屋を調べていたが、いちいち救いがないことが分かると、もうぼうっとするしかなかった。
 涙も出ない。


 その様子を、相変わらず魔女と黒い子猫は見ていた。
 「グンデン・ダ・リーダ、シンデレラは王子様に会えないですか?」
 「うん、少なくとも会えない状況にはされちゃったね」
 「助けなきゃです!」
 ヴェルニーヤはその銀色の大きな目を魔女に向けた。
 「まあ、お待ちなさい。まだよ。少しシンデレラにも考える時間をあげなきゃね」
 「考える時間…?」
 「そうよ。ま、誰にも邪魔されないで考えられる時間を与えてもらえたという意味ではあの継母に感謝しなきゃいけないのかもしれないわね」
 「だって、ママハハさんはシンデレラに意地悪をしたですよ?」
 「意地悪が、結果的に意地悪にならない場合もあるのよ。ま、見てなさい」

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神崎 瑠珠 * 魔女とロマンスの詩 * 00:34 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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