<< October 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< 魔女とロマンスの詩 〜グンデン・ダーリーダの物語(11) | main | 魔女とロマンスの詩 〜グンデン・ダーリーダの物語(13) >>

魔女とロマンスの詩 〜グンデン・ダーリーダの物語(12)

 それからシンデレラは窓際に座って、ぼうっと考えていた。
 自分はどうしたいんだろう。
 もう一度あの名前も知らない王子に会いたいのだろうか。
 「でも、会ってどうするんだろ」
 ぽつりと呟いた。
 王子妃となる自分など全く想像出来なかった。そんな重責に堪えうる自信もない。
 王子が靴を持っていたというからには、自分と一緒にいたあの男が王子でないという可能性はもう無い。その点に関してシンデレラは特に驚かなかった。単に自分の勘が外れなかっただけの話だ。
 そんなことを考えながら何気なく窓の外に目をやると、家の玄関の外に、何やら来客があるのが見えた。
 まさか。
 少人数で、品の良さそうな一行である。
 門までの距離が遠いので目を凝らして見るしかない。
 門番が対応している。何を話しているのかもよく分からない。
 そしてシンデレラの目は、ただ一人彼を見つけた。
 帽子をかぶっているし、昨日とは勿論服も違うけれど…彼だ。
 シンデレラは思わず窓に張り付いた。
 かと言って何が出来るわけでもない。窓を開けることすら思いつかなかった。
 見ている間に、どうやら門番が断ったらしい。一行は帰っていった。
 時間にすればほんの数分の出来事だったのだろうが、シンデレラにとっては瞬間のような、永遠のような、なんとも判別しがたい時間だった。
 ―― 帰ってしまった。私がここにいるのに、気づかないで。
 そう思ったとき、初めてシンデレラの頬を涙が伝った。
 さっきまで自分は何を思っていたんだろう。
 会いたい。会いたいに決まっている。


 それからシンデレラは猛然と努力を始めた。鍵が壊せないか、どこかに隙間はないか。ただ、あまり物音を立てると継母に分かってしまう。そうなったらこの部屋どころではない、地下倉庫かどこかに閉じ込められるのがおちだということは分かっていた。せめてこの部屋にいるうちがチャンスだ。
 勿論窓も全て開けてみた。戸棚に何か使えそうなものがないかどうかも確認してみた。
 …夜までかかってその努力をしてみた結果は、「どうにもならない」ということだった。
 落ち込みはしたが、それ以前に昨日からの体の疲れもあって、シンデレラは差し入れられた粗末な夜食を口にするや否や、あっさりと眠りに落ちた。1日目はそれで終わった。


 2日目。
 朝食にと差し出されたかちかちの固いパンをかじりながら、シンデレラは溜息をついた。
 よく考えたら、王子の一行は一度この家に来たのだ。そして、目当ての娘がいないことを知らされている。
 だとしたら、もう一度来る確率はかなりゼロに近いのではないだろうか。
 「…人間、諦めも肝心だわ」
 一晩寝て落ち着いたのもあり、元々リアリストのシンデレラはそう呟いた。


 「よくないね」
 魔女は腕組みをした。
 「何がです?」
 黒い子猫はにゃああと伸びをしながら聞く。
 「思考が醒めてる。元々そういう子だけど、それじゃロマンスにならないじゃない」
 「どういうことですか?」
 「シンデレラは諦めようとしてる、ってことよ」
 「何でですか!?」
 「だって昨日、王子様の一行が帰っちゃったでしょ」
 「だからって…だからって…!」
 「シンデレラに残されてるのはあと半日よ。そろそろ潮時ね。ヴェル、行ってらっしゃい」
 魔女はそのまま、伸びが終わった子猫を持ち上げ、空間にひょいと放り投げた。


 「ニャア…」
 「!」
 突然ふって湧いた子猫に、シンデレラは死ぬほど驚いた。
 「あなた…ヴェルニーヤ!? どうしたの一体。どこから入ってきたの?」
 どこか猫が通れるくらいの隙間があるのだろうか。シンデレラは期待したのだが、
 「グンデン・ダ・リーダが僕をぽいってしたら、ここにいたです」
 というヴェルニーヤの返答に、肩を落とした。要するに魔法だ。
 「この閉め切られた部屋にあなたを寄越すくらいだったら、逆に私を出してくれればよかったのに」
 「グンデン・ダ・リーダは、そういう分かりやすい親切はしない人なのです」
 「…そうかもね。ま、ともかくおいで」
 誰もいないよりはましだ。シンデレラは黒猫を抱き上げ、ベッドに腰掛けた。
 膝の上で大人しくしている猫を撫でる。
 ヴェルニーヤはまたしてもニャアと鳴きたくなるのを我慢する羽目になった。
 「…猫を撫でるのって、落ち着くね」
 「そう…ですか」
 「毛並みがいいし。育ちがいいのね、この猫は」
 「それはよくわかりません。シンデレラにはそういうのが分かるですか」
 「分かるよ。言葉も丁寧だし。魔女は大事にしてくれるんでしょ?」
 「はい」
 「私とは、大違いだね」
 「シンデレラだって、綺麗だし、言葉も悪くないし、育ちがいいんだと思いますけれども」
 「………私は…だめだよ。大事にされてないし」
 シンデレラはヴェルニーヤの背中に少し顔を埋めた。あたたかいお日様の匂いがする。
 「じゃあ、王子様に大事にしてもらえばいいです」
 「えっ…」
 思わず頬が染まった。
 「だって、王子様はシンデレラを大事にしたくて捜してるのでしょ?」
 「そ、そういうわけじゃ…ないと思う、けど」
 「そうでなければ捜さないです!」
 黒猫がうにうにと暴れる。
 「じゃあ、シンデレラは一体どうするつもりですか」
 「どうするって…」
 シンデレラは少し笑った。今朝から考えていたことだった。
 「今日1日待てば、王都の封鎖が解けるでしょ。そしたら私もここから出してもらえるだろうし、そうしたら商人の馬車にでも乗せてもらって、王都から出てどこかよその土地に行こうと思ってるよ。商人の馬車だったら護衛も雇ってるだろうから、安心だし」
 「どこかに行ってしまうのですか!?」
 「だって継姉さんたちには相手が見つかったって言ってたし。ってことは、これから婚礼の準備が始まるわけでしょ。それから継姉さんたちが出て行ったら…」
 そこから先のことを、シンデレラは口に出せなかった。父はどうせ仕事でろくに帰って来ないとなったら、待っているのは継母と二人だけの暮らしだ。恐ろしくて、考えただけで身震いがした。
 「…そんな目にあうくらいなら、外国の方がいいと思う」
 そのつぶやきを聞いたヴェルニーヤは、今度こそきっぱりとシンデレラの腕から飛び降り、真正面に座って彼女を凛と見上げた。
 「じゃあシンデレラ、どうにかしてこの部屋を出ましょう! 僕とシンデレラで力を合わせれば、きっとどうにかなるです。どこか行くなんてそんなのだめです。お母さんのお墓にも、お父さんにも、王子様にも、もう二度と会えなくなっちゃうなんてそんなのは絶対絶対、だめです!」
 シンデレラはしばらくその猫の銀色の瞳を見つめていた。
 そして、少しの時間をかけて答えた。
 「………うん」
 涙が一粒だけぽろっとこぼれた。

←前 続→
神崎 瑠珠 * 魔女とロマンスの詩 * 18:28 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

コメント

コメントする









トラックバック

このページの先頭へ