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魔女とロマンスの詩 〜グンデン・ダーリーダの物語(13)

3.

 それからシンデレラとヴェルニーヤは、もう一度部屋の中を調べた。
 途中、朝と同じ古いパンが昼食として差し入れられたが、悠長に食べている暇はない。
 「やっぱり、窓しかないね」
 「そうみたいですね」
 戸や壁はどうにもならなさそうだ。とすると、窓しかない。
 「でもここ3階だしね。猫なら飛び降りても大丈夫かもしれないけど」
 「僕は自信が無いです」
 「ちっちゃいもんね」
 「ちっちゃくないです!」
 「はいはい」
 「…はしごかなにか、あればいいんですけどねえ…」
 「梯子…?」
 シンデレラははっとした。
 急いでベッドに駆け寄る。
 「シンデレラ!? どうしたですか!?」
 「ありがとう。どうして気づかなかったのかな」
 「?」
 「梯子よ。無ければ、作ればいいんだわ」
 そう言ってシンデレラはベッドのシーツを取り、力任せに引き裂いた。
 

 シーツを縦に裂いたものに結び目を作り、簡易梯子を作ろうとしていた。
 「シンデレラ、とても頭がいいです!」
 「ありがと。でも全然長さが足りないな…。どうしよう」
 「カーテンとかはどうですか?」
 「そうだね」
 カーテンも外す。どうにかなるだろうか。
 もう日が傾き始めてきていた。
 夜中まで王子が外をうろつくとは思えないし、急がなければならない。
 カーテンはベッドのシーツより生地が厚く、シンデレラの力では到底裂けなかった。
 鋏等はこの部屋には無い。
 何か、代わりになるもの…。
 考えれば考えるほどシンデレラは焦ってきた。
 「どうしよ…」
 隣の子猫をちらっと見たが、その小さな爪ではものの役に立たないことはすぐ分かった。
 「どうしたですか?」
 「…なんでもない。探してくる」
 シンデレラは言い放ち、刃物の代わりになりそうなものを猛然と探し始めた。
 ない。ない。時間が経ち、焦るばかりだ。
 「どうしよう…」
 「シンデレラ!」
 一瞬途方にくれていると、窓枠にちょこんと乗っていたヴェルニーヤが叫んだ。
 「なによ、今私は忙しいのよ!」
 「それどころじゃないです! 王子様が来てます!」
 「なんですって!?」
 シンデレラも窓に駆け寄る。
 門の方を見ると、確かに昨日と同じ一行が来ている。
 「嘘…!」
 今度こそ慌てて窓を開けたものの、どうしていいか分からず迷ったその時、不意に入り口の扉が音をたてた。
 シンデレラはさっと血の気が引く。反射的に背中で黒猫をかばった。
 ドアが開けられ、入ってきたのは継母と継姉たちだった。
 「騒々しいわね、シンデレラ」
 「なんのことですか」
 万事休すとはこのことかとシンデレラは思った。あまりに急だったので、猫以外には何も取り繕う暇がなかった。しらを切ったのは、ぎりぎりの意地だった。
 「庭師が報告をくれたのよ。カーテンを粗末にしてもらっては困るわ」
 「あら、お母様。この子ったらシーツもこんなにしちゃってるわ!」
 「カーテンも、のびちゃってる!」
 3人はずかずかと部屋に入り、シンデレラの努力の結晶を容赦なく取り上げた。
 「どうするつもりだったのかしら、シンデレラ?」
 「何に使うつもりだったの、このシーツ?」
 継姉二人がねばっこい声で聞く。
 「…暇だったので」
 「暇なら大人しくしておけばよかったのに」
 「それとも、働きたいのかしら? 根っから奴隷根性持ちなのね、あんたって子は」
 なんて人の神経を逆撫でするのが上手い姉妹なんだろう。シンデレラは怒りを通り越してある意味尊敬した。
 庭師が報告を「した」というより「させた」のはすぐ分かった。どうせ見張らせていたのだ。
 しかし、今そんなことを気にしている場合ではない。王子の一行が来ているのだ。何故一度断られた家をもう一回訪れているのかは分からないが、これが正真正銘最後のチャンスであることだけは確かだ。
 「…出て行ってくれませんか。忙しいんです」
 言ってからシンデレラは自分でびっくりした。継母たちも面食らったようだった。
 「あなた、さっき暇だったって言ったじゃないの!」
 「出て行けとはどういうことよ!」
 すぐに噛み付くのは継姉たちだ。継母は継姉たちを手で制し、ゆっくりと笑って言った。
 「そう言わないで、ゆっくり話をしましょう。シンデレラ。どうもあなたは私たちを誤解しているわ」
 「今更話すことなんて、何もないです。あなただって本当は私の顔を見るのも嫌なはずだわ」
 今まで言いたくても言えなかった言葉がすらすらとシンデレラの口から出た。
 継母の意図は明確だった。この間に王子の一行が帰ればいいと思っているのだ。
 そのときシンデレラの背後でヴェルニーヤがニャアと鳴いた。
 「シンデレラ、王子様たちが行っちゃいます!」
 はっとシンデレラは振り返る。
 「なに、シンデレラ。あんた、後ろに何隠してるの?」
 「いつの間にそんなの入れたのよ!」
 継姉たちが二人で迫ってくる。シンデレラは背中にかばっていたヴェルニーヤを前に抱きかかえ直した。継姉たちに取り上げられたら、この小さな猫は一瞬で踏みつけにされるか、喋る猫ということで売り飛ばされるだろう。そのくらいのことはやりかねない姉妹だ。案の定、シンデレラは継姉たちと2対1でもみ合うことになった。その中で必死にシンデレラは腕の中の子猫に囁く。
 「ヴェルニーヤ、逃げなさい! 魔女に頼めばあなたくらいなんとかしてくれるでしょ!?」
 「だめです、シンデレラも一緒です! 王子様がそこにいるです!」
 「だって」
 「グンデン・ダ・リーダは、分かりやすい親切はしない魔女です。でも、ロマンスはちゃんとかなえてくれるです。そこは信じても大丈夫です。シンデレラが自分で頑張ったから、きっときっと、かなえてくれるです!」
 シンデレラとヴェルニーヤは見つめ合った。
 「…絶対ね?」
 「絶対です!」
 「…よし!」
 そのままシンデレラは継姉たちを振り払い、窓から身を投げた。

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神崎 瑠珠 * 魔女とロマンスの詩 * 22:36 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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