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幸せの繋がり(2)

2.
 昨日と同じく、気候としてはうららかな午後。
 メルメ1世は半ば呆れた顔で息子を眺めていた。少しは大人になったかと思ったが、まだまだ子供だ。人の上に立つ者がこんなに簡単に気分の良し悪しを人に見せてどうする。
 セルジオは目にみえて落ち込んでいた。しかし彼の名誉の為に言うと、政務の間にこんな顔はしていない。父の前だからこそ見せる顔だった。
 「…セルジオ」
 「なんですか」
 「なんですかも何も…。茶が不味くなるから、その辛気くさそうな顔はなんとかしてくれないか?」
 「お気に障ったのならすみません」
 「そんな言い方しなくても。マリアがどうした」
 「何故ですか」
 「お前がそんな顔をする原因は、マリアしかない」
 「…」
 本当に分かりやすい奴だ、とメルメ1世は感心した。
 「…マリアも、僕と同じ心配をしていたのです。ただでさえ具合が良くないのに、そんなことまで考えさせていた」
 「何故、それを早く言わない!?」
 「僕だって昨日知ったのです」
 「そうか…そうか」
 メルメ1世は、とにかくカップに残った茶を一気に全部飲み干して立ち上がる。
 「すまん、ちょっと娘のところに行ってくる」
 「父上!?」
 「お前は来るな。茶でも飲んでろ」
 「―― !」


 メルメ1世は足早に娘、つまりマリアの部屋に向かう。先触れは出さなかった。そんなことをすればマリアを怯えさせるだけだ。
 部屋に入る時だけ、侍女に一応伝えさせた。「どうぞ」という返事ではあったが、立場上断れないからにすぎないことをメルメ1世は分かっていた。
 部屋に入ると、マリアは窓際のソファのそばに立っていた。
 顔色がひどく悪い。
 「マリア、突然すまないね。楽にして、座って」
 メルメ1世はつとめて明るい声を出した。
 「お父様…」
 「ほら、一緒に座ろう。な」
 父は娘の手をとって無理矢理ソファに座らせる。 
 それだけでもうマリアは泣きそうになっていた。
 「申し訳ありません…」
 「マリア、私は叱りに来たんじゃないんだ。セルジオは子供だから仕方ないにしても、私は、なぁ。もっとマリアを気遣うべきだった。放っておくのが一番気楽かと思ったんだが、かえって気に病ませていたとは、すまない」
 「そんな、私の方こそ伏せってばかりで…」
 「それは仕方のないことなんだ。どうもネーナが平気そうだったから私は軽くみていたんだが、よく考えたらネーナが悪阻の時期だった頃は革命で忙しくて、近くには居たけれど、殆ど会ってもいなかったから本当はよく知らなかったってことをさっき思い出した」
 「…」
 初めてマリアは少し笑った。
 「ネーナが今の私とセルジオを見たらどやすだろうなあ。もっと気を遣えって」
 「ネーナ様…お母様は…でも、お一人で頑張ってらしたのでしょう?」
 「そんなことはない。彼女には彼女の世界があった。私にばかり頼っていたわけじゃないさ。だからマリアが一人で耐える必要はない。それに、マリアは大丈夫なんだよ」
 「どういう…意味ですの?」
 おそるおそるメルメ1世を見上げる顔は、怯えた猫のようだった。
 「うん、これもね、ネーナに知られたら ―― もうバレてるのかもしれないけど、とにかく怒られるところなんだ。
 セルジオと一緒に聞いて欲しい話がある。もしよかったら、今夜少し時間をくれないかい?勿論、体の調子がよければ」
 マリアは少しの後、うなずく。
 「お母様の話は、あまり聞いていませんから…」
 嫁いできて10年。メルメ1世は殆どといっていいほどネーナのことを話さなかった。
 忘れたいからではなく、その1つ1つの出来事や人となりを大事な宝物のように心においておきたいからだとマリアは気づいていた。
 「セルジオにもしたことがない話だよ。しようと思って忘れていた。ネーナからの伝言だ。
 ともかくマリア、大丈夫だよ。君は大丈夫だ。
 …残念ながら父はそろそろ政務に戻らなければならないけれど、また後でな。少しだけいい子で待っていなさい」
 いつものようにメルメ1世はおどける。マリアもほっと笑顔でうなずいた。


 その日の夕食後。メルメ1世の書斎にセルジオ、マリアが来た。
 マリアのために、大きめでゆったりかけられるソファを運ばせてある。そこにセルジオとマリアが並んで座り、向い側にメルメ1世が愛用している1人用の椅子に座っていた。
 「父上、何故父上の部屋なのですか?わざわざソファを運ばせるくらいなら、マリアの部屋でも」
 と一応は事前に抗議したセルジオだったが、メルメ1世は譲らなかった。
 「本気で話す時の決まりごとのようなものだよ、セルジオ。ただそれだけだ」
 なんとなく合点はゆかなかったが、仕方がない。セルジオは無理矢理納得し、マリアには「なんだかよく分からないけど父上の我儘ですまない」と言って連れてきた。
 見たところマリアは、昨日より少し楽しそうな顔をして、思いつめた硬さがとれているようだった。
 昼間に父とした会話のせいだとは思うが、何を話したのかさっぱり見当がつかない。
 しかも「今夜話がしたいから、マリアと一緒に来てくれ」と言われてそれなりに面食らったのもある。
 なんにせよマリアの気が楽になる話だったらよいけれど、とだけ考えて彼はそこに座っていた。
 「さて、急にすまないね。お前たちにしなければいけない話をやっと思い出したもので」
 メルメ1世の言葉に、2人は首を振る。 
 「ネーナは…セルジオの母親であり、私の妻でもある。それはそれは元気な人だったよ」
 ―― 遅くなってごめん。あのときの君を思い出す日が来たよ、ネーナ。

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神崎 瑠珠 * 幸せの繋がり * 22:15 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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