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桜影の支配・2

ひとしきり買い物を終えた後、電話一本で彼を呼び出した。
カフェで本を読みながら待つ。
彼はふらりと現れた。


「エリさん、お待たせ」

「遅い」

「だっていきなり呼び出された俺の身にもなって」

「言い訳無用。そこに座りな」


私は横の席を顎でしゃくった。
テーブル席もあるにはあるが、この店はカウンターが私のお気に入りだ。
彼ははいはい、と大人しくそこに座った。
急に呼び出したことなど、取るに足らないことだ。勿論、謝ったりはしない。


「で、どうかしたの?」

「どうもしない。暇だったから」

「例の真っ黒な彼は?」

「………」

「振られたの?」

「振られてないわよ、失礼な」

「じゃあ、他の女と遊んでるの?」

「知らない」

「なんじゃそりゃ」

「それ以上言ったら蹴るよ」

「…はいはい」


彼はメニューをざっと見、アイスコーヒーを注文した。


「煙草吸っていい?」

「待ちなさい」


私は自分の鞄の中から、買ったばかりのシガレットケースを出した。
薄く平べったい、アラベスク模様の入った金属のケースだ。
蓋を開けて1本取り出す。


「なに、そんなんいつ買ったの?」

「最近。煙草の箱持ち歩くのが嫌なの」

「彼にバレたら困るもんねえ」

「四の五のうるさいな。いいから点けなさい」


私は煙草をくわえて息を吸った。
彼はライターを取り出し、私の煙草にそっと火をつけた。


「俺、これじゃあなんかホストっぽいよ」

「そんな上等なもんじゃないわよ」


ふーっと煙を吐く。
煙を吐くのは溜息をつくのに似ている、ということに煙草を吸い始めてから気づいた。
彼も自分の煙草を取り出し、吸い始める。
ここのカフェには禁煙席がない。気が楽だ。


「彼といると、そんなにストレスたまるの?」

「溜まらないわよ。好きだもん」

「好き、ねえ。あの彼のどこがいいの?あの真っ黒なところ?」

「『どこが好き?』って聞くのは世界で最も愚かな質問の一つだと思うけど。『全部』としか言いようがないわよ」

「ほほー。んじゃ何で今俺と一緒にいるのさ」

「都合がいいから」

「うわー…」

「一人でご飯とか食べるの、嫌なのよ」

「…気持ちは分からんでもないけどさ。じゃ、もし今日俺に用事があったらどうなってたわけ?」

「そんなん許さないわよ。決まってるでしょ」


彼はひどいな、とかなんとか言っていたが私は完璧に無視し、注文したワッフルがやってきたので煙草の火を消した。
グラスに入ったメイプルシロップを残らず注ぎ、ひとくち目を食べる。
美味しい。
載せられたバニラアイスにはたっぷりとバニラビーンズが使われていた。それだけでもう単純に嬉しい。


「うっまそーに食べるなあ」

「悪い?」

「悪かないよ。俺も食べたくなったってだけ」

「ひとくちならあげてもいいよ」


私はフォークに刺したワッフルを一切れ、彼の口に放り込んだ。


「ありがと。うん、美味い」

「あとはあげない」

「…好きなだけ食べなさい。メシ喰ってなかったの?」

「あんたがくる前にパスタ食べたよ」

「女って、なんで甘い物は別腹なのかね。こないだも会社の後輩がさ…」

「あたしの前で他の女の子の話なんかしたら、ぶっ殺すよ」

「あーはいはい…。っていうかそれ、彼にも言うの?」

「言わないよ」

「なんで俺にだけ言うの!?」

「そんなの、あたしの勝手よ」

「…どうしてエリさんは、俺に対してはそう傲岸なんだろう」

「あんたは私のことを好きだけど、私はあんたのことが好きじゃないからよ」

「うっわー………なんて性格の悪い台詞だ」

「間違ってる?」

「間違ってないけどさ。なに、エリさんは彼にそんなによく見られたいの?」

「違うわよ」


彼には支配されたいのよ、と言いかけて私は口をつぐんだ。
他人に上手く説明出来る自信がない。


「彼に上手く甘えられない分、俺に甘えてるわけ?」

「まあ、そういうことにしておいてもいい」

「…なんか屈折してるなあ。エリさんの愛情は。素直に彼に対して甘えればいいのに。それでこその彼氏彼女でしょう。これじゃあ、俺の方がよっぽど彼氏っぽいじゃない」

「ほっといてよ」


彼の椅子を一つ蹴飛ばし、私はワッフルをはぐはぐと食べ続けた。
神崎 瑠珠 * 桜影の支配 * 22:05 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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